高知地方裁判所 昭和51年(ワ)219号 判決 1985年10月31日
亡島本多喜雄承継人原告
島本泰子
亡島本多喜雄承継人原告
島本達夫
亡島本多喜雄承継人原告
諸岡信子
亡島本多喜雄承継人原告
岸千代子
右四名訴訟代理人弁護士
島本信彦
清水孝雄
被告
国
右代表者法務大臣
嶋崎均
右訴訟代理人弁護士
金子悟
右指定代理人
小沢康夫
外八名
被告
植野孝
植野親江
被告
有限会社敬武林業
右代表者取締役
山中重利
右三名訴訟代理人弁護士
田本捷太郎
被告
関西不動産株式会社
右代表者代表取締役
澤村拓夫
右訴訟代理人弁護士
岡崎永年
林一宏
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
(当事者の申立)
一 原告ら
1 主位的請求
原告らに対し、別紙目録記載の土地について、被告国は高知地方法務局昭和四九年二月八日受付第五〇二六号の所有権移転登記の、被告植野孝及び同植野親江は同所同年七月八日受付第二四六二七号の所有権移転登記の、被告有限会社敬武林業は同所同年八月九日受付第二八五三九号の所有権移転登記(共有者全員持分全部移転登記)の、被告関西不動産株式会社は同所昭和五一年三月三〇日受付第一二五七二号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
2 予備的請求
(一) 被告国は原告らに対し別紙目録記載の土地について売払いの手続をせよ。
(二) 国に対し、別紙目録記載の土地について、被告植野孝及び同植野親江は高知地方法務局昭和四九年七月八日受付第二四六二七号の所有権移転登記の、被告有限会社敬武林業は同所同年八月九日受付第二八五三九号の所有権移転登記(共有者全員持分全部移転登記)の、被告関西不動産株式会社は同所昭和五一年三月三〇日受付第一二五七二号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告ら
主文と同旨。
(当事者の主張)
一 原告らの請求原因
1 主位的請求関係
(一) 別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、島本重德(以下「重德」という。)の所有であつたところ、重德が昭和二一年二月一六日隠居し、その長男である元原告島本多喜雄(以下「多喜雄」という。)が家督相続したので、多喜雄の所有となり、更に、多喜雄が本訴提起後の昭和五二年八月二五日死亡し、妻である原告島本泰子及び子であるその余の原告三名が共同相続したので、原告らの共有となつた。
(二) ところが、本件土地には、高知地方法務局昭和四九年二月八日受付第五〇二六号をもつて、同三四年七月一五日農地法七二条による買収を原因とする多喜雄から被告国(農林省)への所有権移転登記(以下「(1)の登記」といい、次の(2)ないし(4)の各登記についても同様に略称する。)、(2)同所昭和四九年七月八日受付第二四六二七号をもつて、同年六月三〇日売払いを原因とする被告国(農林省)から被告植野両名への所有権移転登記(持分二分の一宛)、(3)同所同年八月九日受付第二八五三九号をもつて、同月八日売買を原因とする被告植野両名から被告敬武林業への所有権移転登記(共有者全員持分全部移転登記)、(4)同所昭和五一年三月三〇日受付第一二五七二号をもつて、同日売買を原因とする被告敬武林業から被告関西不動産への所有権移転登記がそれぞれなされている。
(三) よつて、原告らは、本件土地の所有権に基づいて、被告国に対し(1)の登記の、被告植野両名に対し(2)の登記の、被告敬武林業に対し(3)の登記の、被告関西不動産に対し(4)の登記の各抹消登記手続をすることを求める。
2 予備的請求関係
(一) 仮に(1)の登記の原因である農地法七二条による買収(以下「本件買収」という。)が有効であるとしても、本件土地については、昭和二三年一二月二日付けで、農地法四四条と同旨の旧自作農創設特別措置法(昭和二二年法律二四一号による改正後のもの。以下「自創法」という。)三〇条の規定による買収(以下「旧買収」という。)がなされ、次いで、昭和二六年七月一日付けで、自創法四一条の規定による多喜雄への売渡しがなされ、更に、昭和三四年七月一五日付けで、本件買収がなされたものであり、かつ、遅くとも昭和四九年六月頃までには、当時の農林大臣が、本件土地について農地法八〇条一項所定の認定(開拓不要地の認定)をしていたから、同条二項の規定及び前記1の(一)の相続関係に徴し、本件土地は買収前の所有者多喜雄の一般承継人である原告らに売り払われるべきであつて、原告らは、被告国に対し、右売払いの請求権を有する。
(二) (2)の登記の原因である売払い(以下「本件売払」という。)は、買収前の所有者又はその一般承継人でない被告植野両名に対してなされたものであるから、農地法八〇条二項の規定に違反している。また、「国有農地等売払事務処理要領について」(昭四六・一〇・八、四六農地B第一九二四号局長通達)には、農地法八〇条一項の規定による認定、売払価格の決定、売払いの相手方の決定等、同条の規定に基づく売払いに関する詳細な手続が定められているところ、本件売払においては、開拓不要地の範囲の確定手続がなされた形跡がなく、原則として入札の方法によることとされているのに随意契約によつており、売払価格が不確かな資料による不正な方法によつて僅か二五万一五〇〇円という極めて低額に評定されているなど、重要な点につき所定の手続が履践されておらず、手続全体が、被告植野両名と事務担当吏員の結託により、不正違法な手段によつて行われている。したがつて、本件売払は、重大かつ明白な瑕疵があつて無効であるから、本件土地の所有権は未だ被告国(農林水産省)に属し、(2)ないし(4)の各登記は実体を欠くというべきである。
(三) 被告国は、本件土地の所有権に基づき、その余の被告らに対し(2)ないし(4)の各登記の抹消登記手続を請求できるのに、その権利を行使しない。
(四) よつて、原告らは、被告国に対し本件土地について原告らへの売払いの手続をすることを求めるとともに、右売払いの請求権を保全するため、被告国に代位して、被告植野両名に対し(2)の登記の、被告敬武林業に対し(3)の登記の、被告関西不動産に対し(4)の登記の各抹消登記手続をすることを求める。
二 被告らの認否
1(一) 請求原因1の(一)の事実のうち、本件土地が各相続の対象であつたこと(各相続により本件土地の所有権が重德から順次多喜雄及び原告らへ移転したこと)は不知、その余は認める。
(二) 同(二)の事実は認める。
2(一) 請求原因2の(一)の事実のうち、昭和二六年七月一日付けの売渡しの被売渡人及び本件買収の被買収者が多喜雄であること並びに原告らが本件土地につき売払いの請求権を有することは否認し、その余は認める。
右の被売渡人及び被買収者は重德である(旧買収の被買収者も同様。)。なお、本件土地については、右の被売渡人及び被買収者が多喜雄であつたかのような登記が経由されているが、これは、登記を嘱託する際、書面の記載を誤つたことによるものであつて、真実に反する。
また、農地法八〇条二項の規定は、同法九条、一四条又は四四条の規定により買収した土地を売り払う場合につき、原則として買収前の所有者又はその一般承継人に売り払いすべきことを義務づけているものであるところ、本件買収は同法七二条の規定により行われたものであるから、本件土地については右義務づけの規定は適用されないというべきである。
(二) 同(二)の事実のうち、原告ら主張の通達が存在することは認め、その余は争う。
(三) 同(三)の事実のうち、被告国がその余の被告らに対し抹消登記手続を請求できることは否認し、その余は認める。
三 被告らの抗弁
1 主位的請求に対するもの
(一) 被告国は、昭和二三年一二月二日付けで、自創法三〇条一項一号の規定により本件土地を重德から買収(旧買収)し、同二六年七月一日付けで、同法四一条の規定によりこれを重德に売り渡した(以下「旧売渡」という。)。
(二) そして、被告国は、昭和三四年七月一五日付けで、農地法七二条の規定により本件土地を重德から買収(本件買収)した。
2 予備的請求に対するもの
農地法八〇条二項の規定に違反する売払いも、私法上の取引として有効であり、売払いが対抗要件を具備することによつて、売払土地は、旧所有者に対する関係においても、同条一項にいう農林水産大臣が管理する土地ではなくなり、同時に、同条二項に基づく旧所有者の売払請求権は消滅するというべきところ、被告植野両名は、本件土地について(2)の登記を経由し、本件売払の対抗要件を具備している。したがつて、本件売払は、仮に同条二項に違反するものであるとしても、無効とはいえず、原告ら主張の売払請求権は既に消滅しているというべきである。
四 原告らの認否
1(一) 抗弁1の(一)の事実のうち、旧売渡の被売渡人が重德であつたことは否認し、その余は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、被買収者が重德であつたことは否認し、その余は認める。
2 抗弁2の事実のうち、本件売払につき(2)の登記が経由されていることは認め、その余は争う。
五 原告らの再抗弁(抗弁1に対するもの)
1 旧買収は、前記家督相続により本件土地の所有権が重德から多喜雄へ移転していたのに重德を被買収者とし、かつ、本件土地が墓地を含んでいることやその自然的条件等に徴し自創法三〇条一項一号に該当しない買収不適地であつたのにこれを看過してなされたものであるから、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。
2(一) 本件買収は、本件土地が多喜雄の所有であつたのにこれを看過し、重德を被買収者としてなされている。また、本件買収については、多喜雄に対してはもとより、重德に対しても、買収令書が交付されておらず、買収代金も支払われていない。
(二) 農地法七二条の規定による買収をするについては、同法七一条所定の検査を実施しなければならず、その検査は、「農地法第七十一条の土地等の利用状況検査要領」(昭和二八・八・一一、二八地局第三〇一三号局長通達に係るもの。以下「検査要領」という。)に準拠すべきものであつて、これには、検査は開墾を完了すべき時期の属する年度においてその時期の到来後に実施する、知事は趣旨の普及徹底を図るとともに土地の売渡しを受けた者に対して検査実施の前年度に通知する、開墾が完了しているかどうか等につき個人別検査表を作成して土地の売渡しを受けた者と立会人に署名捺印させる、と定められているところ、本件土地については、そのような手続がなされていないので、右の検査が実施されたとはいえない。
(三) また、検査要領によれば、未墾地の開墾が完了したか否かが合格不合格の一応の基準となるが、検査の結果、未開墾であつても、土地の自然的条件によりこれを農用地に供することが困難であると認められる場合は、合格として取り扱つても差支えない、とされているところ、本件土地は、自然的条件からして、農用地に供することが著しく困難であるから、仮に検査が実施されたとしても、合格とされるべきであつた。
(四) 以上の次第で、本件買収は、法定の要件を欠いており、その瑕疵が重大かつ明白であるから、無効である。
六 被告らの認否
1 再抗弁1の事実は争う。
2 同2の事実のうち、検査要領が存在することは認め、検査が実施されていないことは否認し、その余は争う。本件買収の買収令書は、当時その事務を担当していた高知県農地開拓課が作成して高知市農業委員会に送付し、同委員会から重德に交付され、買収代金は、重德から委任を受けた高知県知事が岡山農地事務局へ必要書類を送付して請求し、同局支出官が日本勧業銀行高知支店に振り込み、同店から高知県信用農業協同組合連合会を経由して関係農業協同組合に送金され、同組合から重德に支払われた。また、被告国は、本件買収前に、農地法七一条の規定に従い検査を実施し、不合格としたものである。
(証拠関係)<省略>
理由
(主位的請求関係)
一請求原因について
本件土地が重德の所有であつたこと、重德が昭和二一年二月一六日隠居し多喜雄が家督相続したこと、多喜雄が昭和五二年八月二五日死亡し妻である原告島本泰子及び子であるその余の原告三名が共同相続したこと、本件土地につき(1)ないし(4)の各登記がなされていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二抗弁について
1 被告国が、昭和二三年一二月二日付けで、自創法三〇条一項一号の規定により本件土地を重德から買収(旧買収)したことは、当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば、被告国は、昭和二六年七月一日付けで、自創法四一条の規定により本件土地を重德に売り渡した(旧売渡)ことが認められる(この売渡しの事実は、被売渡人が重德である点を除き、当事者間に争いがない。)。もつとも、<証拠>によれば、高知県知事は、昭和四九年二月八日、旧売渡の被売渡人が多喜雄である旨の売渡通知書謄本を作成したうえ、これを添付して多喜雄を登記権利者とする所有権移転登記の嘱託をし、その結果、同日、旧売渡により多喜雄が本件土地の所有権を取得した旨の登記が経由されたことが認められる。しかし、<証拠>を総合すると、旧売渡は右のとおり昭和二六年七月に行われ、その後、後記のとおり昭和三四年に本件買収がなされたが、そのいずれについても所有権移転登記が経由されていなかつたところ、昭和三七年四月に重德が死亡したこと、そのため、旧売渡及び本件買収の事務を担当していた高知県農政課の職員は、死亡者を被売渡人(登記権利者)及び被買収者(登記義務者)とする登記の嘱託をするのは相当でないと考え、旧売渡及び本件買収に基づく各所有権移転登記を一挙に経由するにあたり、便宜上の処置として、死亡した重德の長男である多喜雄が被売渡人及び被買収者であるという形式をとることとし、高知県知事において、その形式で右各登記の嘱託をした結果、前記の多喜雄名義の登記及び本件買収による多喜雄から農林省への登記がなされたこと、以上のとおり認められるから、前記の多喜雄名義の登記は真実に反するものというべきである。他に旧売渡の被売渡人が重德であるとの認定を左右するに足りる証拠はない。
2 <証拠>によれば、被告国は、昭和三四年七月一五日付けで、農地法七二条一項一号の規定により本件土地を重德から買収(本件買収)したことが認められる(この買収の事実は、被買収者が重德である点を除き、当事者間に争いがない。)。本件土地につき旧売渡を原因とする多喜雄名義の登記がなされた事情は前記のとおりであり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
三再抗弁について
1(一) 家督相続人は相続開始の時から前戸主の有していた権利義務を承継することとされ、ただ、隠居による家督相続においては、隠居者は確定日附のある証書によつてその財産を留保することができるとされているところ(旧民法九八六条、九八八条)、重德が本件土地を自己に留保したことについては、被告らから主張がないし、これを認めるに足りる証拠もないから、本件土地の所有権は、前記家督相続により、重德から多喜雄へ移転したものと認めるほかなく、したがつて、重德を被買収者とした旧買収には、本件土地の所有者を誤認した瑕疵があるといわざるをえない。しかし、<証拠>によれば、本件土地は、前記家督相続による所有権移転登記を経由せず、重德名義のままで放置され、その管理も引き続き近くに居住する重德が行つていたこと、多喜雄は、医師で東京都に定住し、大学医学部に勤務していたため、本件土地を含む相続財産の管理を重德に委ねていたうえ、重德からの報告により、旧買収がなされたことをその頃知つたことが認められるから、右の瑕疵は、旧買収が当然無効とされるべきほどの重大かつ明白なものとはいい難い。
(二) 自創法三〇条一項一号は、自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するため必要があるときは「農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとするもの」を買収することができる、と定めているところ、本件全証拠を検討しても、本件土地が右買収の対象たりえないものであつたとは認められない。
(三) したがつて、旧買収は無効であるという原告らの主張は理由がない。
2(一) 既に判断したところから明らかなように、本件土地は、旧買収により被告国の所有となつた後、旧売渡により重德の所有に帰していたものであるから、重德を被買収者とする本件買収に所有者誤認の瑕疵があるということはできない。
(二) <証拠>を総合すると、本件買収がなされた当時における買収手続の概要は、まず、県農地開拓課が買収計画をたて、次いで、これに基づく買収令書を作成し、これを関係農業委員会に送付する、これを受けた農業委員会は、被買収者に対し買収令書を交付するとともに、買収代金の受領を知事に委任する旨の委任状を被買収者から徴し、これを県農地開拓課に送付する、これを受けた県農地開拓課は、受領委任者名簿を作成して、他の関係書類とともに岡山農地事務局に送付する、これを受けた岡山農地事務局の支出官は、送付された書類に記載されている個人別受領額、受領場所等に従つて金額を計算し、買収代金を日本勧業銀行高知支店に振り込み、同店は、これを受領委任者名簿により高知県信用農業協同組合連合会を経由して関係農業協同組合に送付し、同組合から各被買収者に代金が支払われる、というものであつて、本件買収についても、このような一連の手続が行われたことが認められる。原告らは、本件買収の買収令書は交付されておらず、代金も支払われていないと主張するが、甲第三号証の四(乙第一〇号証)の未墾地等の買収令書の受領一覧表及び乙第九号証の七の委任状(右の知事への委任状)には、重德を含む五名の被買収者名義の記名押印がなされている。そして、証人西野定男、同弘内禮藏の各証言並びに弁論の全趣旨に徴すると、右の一覧表等の記載は高知市農業委員会の職員で初月地区(本件土地近辺)を担当していた森本正憲がしたものであることが明らかであるところ、<証拠>、右弘内の証言によれば、森本は几帳面な性格の持主であつて軽率な行動をするような人物ではなかつたことが窺えるし、森本において、買収令書を交付していないのにしたようにみせかけ或は代金の受領委任を受けていないのに受けたように仮装して文書を偽造する動機があつたとも認められない(証人柏井干雄、同西野定男、同西野福実は、本件買収と同時になされた買収について令書を受け取つていない、右の一覧表等は知らないと証言しているが、それ自体にあいまいな点があるうえ、その証言からしても、右の動機があつたことを窺知することはできない。)から、右の一覧表等が偽造に係るものであるとみることは困難である。以上の事情からして、本件買収の令書の交付及び代金の支払は行われたと推認せざるをえない。
(三) 農地法七一条所定の検査について検査要領が存在することは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、検査要領に原告ら主張のような検査方法の定めがあることが認められるけれども、<証拠>に徴すると、重德らは、旧売渡後も本件土地のうち南側の小道に接した約一畝の部分に芋等を植えたものの、開墾して農地とすべきであつた本件土地の開墾を完了していなかつたことが明らかであるから、仮に右の定めに従つた厳格な検査がなされていなかつたとしても(なお、本件土地につき検査自体がなされなかつたと認めるに足りる証拠はない。)、そのことは、本件買収が当然に無効とされるほどの重大かつ明白な瑕疵にあたるとはいえない。
(四) 右書証によれば、検査要領に原告ら主張のような合否判定に関する定めがあることが認められるけれども、それは、未墾地の開墾が完了していない場合でも、当該土地をめぐる諸般の事情により、例外的に合格として取り扱つて差し支えないという内容のものであるから、本件土地につき検査不合格とされたことが本件買収の重大かつ明白な瑕疵であるということはできない。
(五) したがつて、本件買収が無効であるという原告らの主張も失当である。
(予備的請求関係)
農地法八〇条の規定に基づく農林水産大臣の売払いは、当該土地につき自作農創設等の用に供するという公共的目的が消滅した場合に行われるものであるから、一般国有財産の払下げと同様、私法上の行為であつて、これを行政処分とみることはできない。
そうだとすれば、同条二項の規定に違反する売払いも、私法上の取引として有効であり、売払いが対抗要件を具備することによつて、売払土地は、買収前の所有者又はその一般承継人に対する関係においても、同条一項にいう農林水産大臣が管理する土地ではなくなり、同時に、同条二項に基づく買収前の所有者等の売払請求権は消滅するというほかない。
しかるところ、被告植野両名が本件土地について(2)の登記を経由し本件売払の対抗要件を具備していることは、当事者間に争いがないから、本件売払は、仮に同条二項に違反するものであるとしても、無効とはいえず、原告ら主張の売払請求権は既に消滅しているというべきである。
(結論)
以上の次第であつて、原告らの本訴請求は、自余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山脇正道 裁判官前田博之 裁判官田中 敦)